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第2回「監査の品質は下がらない」オンライン監査実施報告

監査法人長隆事務所では、今夏より「オンライン監査」を導入いたしました。
実務にあたる会計士が、数回にわたり「オンライン監査」をテーマにその実態を綴ります。
今回はその第2回目「オンライン監査実施報告」です。


第2回 「監査の品質は下がらない」オンライン監査実施報告

監査法人長隆事務所 公認会計士 原田 智浩

はじめに

監査対象が病院となるため、コロナによる感染防止対策及び片道6時間に及ぶ移動時間の削減を図り、オンライン監査を行った。オンライン監査は、病院側・監査人側の初めての試みであったが、特段の障害は発生せずに、スムーズに監査を行うことができた。以下、監査を実施した結果、私が感じたオンライン監査のメリット・デメリットを監査人側と病院側にわけてまとめさせて頂いた。

オンライン監査のメリット

【監査人側】
・出張旅費の削減
・移動時間削減による監査時間の確保
・病院の会計ソフトに直接アクセスできるため、過年度を含めた膨大な情報が入手できる
・会計ソフトから必要なデータをエクセルで入手できるので、調書への入力作業が削減できる
・会計ソフトの分析ツールを利用することによって、作業時間の効率化が図れる
・場所や働き方が自由となるため、能力のある専門家を必要に応じてアサインできる
・監査人自身のペースで、調書作成を行うことができるため、納得のいく監査調書が作成できる
・審査員についても十分な時間が確保されるので、審査体制も強化される

【病院側】
・出張旅費の削減
・会計数値に関する情報は、監査人が会計ソフトから直接入手するため、手間が省ける
・訪問往査を避けることができるので監査期間中、常時、監査対応する必要がなく、日常業務を行う時間が確保される
・紙ベースではなく、データベースでの資料の保存が必要となるため、必要な全ての文章を整理し確認して利用できるようにするよい機会となる

オンライン監査のデメリット

【監査人側】
・現場で実査を行うことができないため、現金・預金・証券実査については網羅性の観点から、固定資産実査については陳腐化等の評価の妥当性の観点から問題が残る。また、管理体制に関する内部統制の整備・運用状況について観察することができない。同様に棚卸資産の立会を行うことができないため、網羅性、評価の妥当性、内部統制評価に問題が残る。
→改善策:実査・立会に関しては、年に1回であるため、訪問往査を行っても病院・監査人の大きな負担になる事はないため、リスクに応じて実査・立会を行う。

・オンライン監査では訪問監査より、病院側との相対のコミュニケーションが少なくなるので、コミュニケーション不足により信頼関係が損なわれる可能性がある。
改善策→ズーム会議を定期的に取り入れ意見交換の場を設ける。

・各病院で使用している会計ソフトが異なるため、監査人側での様々な会計ソフトに関する知識が必要となる。
改善策→様々な会計ソフトを使えることは、今後、監査人がオンライン監査を行うに当たって必要なスキルと考えられるので、デメリットとしてではなくスキルアップのメリットとして意識する必要がある。

・データベースでのやりとりが基本となるため、不正に加工した文章を提出したり、関連情報を除外したりする機会が増えるため、不正を考慮した監査計画・監査手続が追加で求められる。
改善策→環境の変化により、リスクが変化することはリスクアプローチ監査の前提であるので、リスクアプローチの一環として捉えることは当然の事である。

【病院側】
・取引の関連証憑に関するデータ化が必要となるため、PDF化作業の負担が増加する
改善策→現在、どの現場でも平均して年間200~300件の証憑突合を行っているが、無駄なサンプリングも発生しているため、監査人側がリスクに応じてサンプル数を減少する。

・監査人が会計ソフトにログイン中にはデータ入力作業を行うことができないため、作業を妨げてしまう可能性がある。
改善策→監査人が監査の初日に必要なデータを可能な限り、会計ソフトからダウンロードして対応する。

お客様の生の反応

出張旅費の大幅な削減により、金銭的側面から監査コストが削減できた。また、監査人が必要な情報を自由に会計ソフトから入手できるため、メールのやりとりが削減され、時間的側面からも監査コストが削減された。監査人に提供する情報はオンライン監査であっても訪問監査であっても同様であり、また、監査人から提供される情報(改善事項報告等)にも変わりがないことから、訪問監査と同様なサービスの提供を受けることができた。サービスの提供が同水準で金銭的側面及び時間的側面から監査コストを削減することができるので、オンライン環境が整っている状況では、オンライン監査のメリットのほうがデメリットよりも大きいと思う。

まとめ

オンライン監査であっても、訪問往査と比較して、監査の品質は下がることはない思う。オンライン監査での最大のメリットは、監査時間の確保及び会計ソフトへの直接アクセスによる膨大な会計情報の入手である。予備調査では監査初年度であるので、過去の会計情報が数年分必要となり、自由にアクセスして情報を入手することができるので、スムーズに行うことができた。補助者の方は、監査経験年数が10年を超えていて本人の今までの経験で監査手続に必要な情報を会計ソフトから直接入手できたので比較的負担がかからず現場管理を行うことができた。逆に監査経験が浅い会計士をアサインすると膨大な会計情報から必要な情報を自分自身で入手する必要があり、ゼロからの指示が必要となるため、現場管理の負担が相当増えるだろうなという印象である。実査・立会に関しては、年に1回であるため、訪問往査を行っても病院・監査人の大きな負担になる事はないと思う。

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