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第1回 医療機関の診療報酬請求、知らなかったでは済まされない!

 皆様、はじめまして。特別顧問の渡辺と申します。私は、厚生労働省関東信越厚生局の保険医療指導部門に、2年前まで勤務しておりました。今月から、私の過去の経験等を踏まえて、保険医療機関の診療報酬請求に関する注意などを、2か月ごとにシリーズでお伝えしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

 約48億4千万円。

 これは、令和5年1月17日に厚生労働省から公表された令和3年度における保険医療機関等の指導・監査等で保険医療機関等から返還を求めた額です。(個別)指導による返還分が約14億7千万円、適時調査による返還分が約20億7千万円、監査による返還分が約13億円とされています。

 返還金額の他に、取消等の処分状況も公表されました。保険医療機関等では26件(指定取消9件、指定取消相当17件)、保険医等では16件(登録取消13件、登録取消相当3件)とされています。取消等に係る端緒としては、保険者、医療機関従事者(職員や元職員)、医療費通知に基づく被保険者(患者)等からの通報が大部分を占めているとのことです。

 医療機関の診療報酬請求に際して、保険診療のルール(診療報酬の算定要件、施設基準など)から逸脱したものであれば返還を求められます。また、架空請求、付増請求、振替請求、二重請求、その他の請求など不正の内容が認められれば、監査が実施され保険医療機関等の指定取消や保険医等の登録取消の行政処分とされるのです。

 皆様ご承知のとおり保険診療は公法上の契約であり、診療側と保険者側の双方の信頼関係が基本となります。そのため故意の不正は極めて問題であり、行政機関である厚生局による監査での事実確認によって取消等とされてもやむを得ません。不正を行う医療機関は極一部であり、ほとんどの医療機関は故意に不正を行うことはないでしょう。しかし、日常から適正、適切な診療報酬請求が完璧に行われているのでしょうか?

 保険診療のルールは複雑で、多岐にわたっています。また、2年に一度定期的に行われる診療報酬改定や取り扱いの見直しなどもあります。ルールから逸脱したものであれば返還を求められることがあり、これまで病院の入院料で数億円の返還となった例は全国的にいくつもあります。金額単価の低いものが返還対象とされても該当数が多かったり返還対象期間が長い(最長5年間分)場合には1千万円超えになることも多々あります。厚生局が返還該当と認めるわけですから、知らなかった(うっかり)では済まされないのです。

 返還金の過大な例のひとつとして、1つのフロアーに2つの病棟があり、2つの病棟の中央部分に隣接してそれぞれのナースステーションがあった例です。夜間の看護職員は病棟ごとに複数配置が大原則です。ところが、この病院では、夜勤帯において恒常的に看護職員が2人配置の病棟と1人配置の病棟で勤務をしていました(2病棟で3人配置)。2人配置の病棟の1人を、双方の病棟兼務の取り扱いとしていたのです。看護単位は病棟ごととされ、夜勤帯の人員配置は病棟ごとに決められていますので、1人で同時に2箇所を兼務して、同時に1人のカウントは許されません。ナースステーションが隣接していたとしても、区切りを無くして2病棟間を勝手に行き来することは認められません。厚生局の適時調査において、このことが確認され恒常的に不適切な配置をしていた2年前までさかのぼり入院料の返還となりました。2年前に看護職の離職が続くなか、看護部長の交代があり、新しい看護部長の指示で人員不足を補うためにナースステーションが隣接しており夜間の用務は少ないことから不適切な配置をしていたとのことでした。看護部長は、「恒常的に病棟兼務できないことを知らなかった」と言っていました。この例では、約1億円の返還となりました。

 一見、現場感覚では合理的かつ効率的に感じられるものであっても保険診療のルールから逸脱するものがあります。いかなる場合であっても、ルールを遵守する必要があります。ルールである算定要件や施設基準の取り扱いを正しく理解して、より多くの診療報酬を獲得し、病院の収益増加にチャレンジしましょう。保険診療はルールを知っていることが当たり前として成り立つ制度ですから、知らなかったでは済まされないのです。

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